「暑くない」「飲まない」その言葉の裏にあるサインとは?〜介護現場での熱中症予防〜
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高齢者の熱中症は、毎年のように大きな課題となっています。消防庁の統計では、熱中症による救急搬送者のうち、およそ半数以上が高齢者であるという結果が出ています。
背景には、「暑さを感じにくい」「喉の渇きに気づきにくい」といった加齢による体の変化や、「飲みたくない」「あとで飲む」といった言葉の裏にある心理的・身体的な事情が潜んでいます。
本記事では、介護の仕事に携わる方に向けて、「暑くない」「飲まない」という言葉だけでは見えてこない体調の変化をどう読み取るか、どのような視点で日々の体調変化に気づいていくかについて整理しています。
水分補給をうながす工夫ももちろん大切ですが、それだけでは防ぎきれない場面もあります。日々の観察と声かけの中で、小さな異変に気づく視点のヒントとなれば幸いです。
目次
1. 高齢者は「暑くない」と言うけれど…実際はどうなのか?
介護士が暑く感じる室温でも高齢者は「暑くない」は本当?
高齢者は、加齢によって体温調整機能が低下し、暑さを感じにくくなります。汗をかきにくく、体内に熱がこもりやすい状態です。しかし、自律神経の働きも弱まることで、熱がたまっても不快感も感じにくくなります。そのため、本人は暑さを感じていないようでも、実際はすでに熱がたまっているということも。
特に注意したいのは、介護する側が「暑い」と感じていても、本人は「寒い」と訴えるような“感じ方のズレ”が起こることです。冷房が効いた部屋でも毛布をかけている、という場面は、その一例です。また、暑さに気づいても言葉で表現できなかったり、自分で扇風機をつける・服を脱ぐといった行動に結びつけられなかったりすることもあります。
こうした“暑さへの感覚の変化”と“熱をため込みやすい身体”の両面をふまえたうえで、日々の観察や環境調整を行うことが求められます。
水分をとりたがらない高齢者の「飲まない」のはなぜ?
高齢者が水分をとらないのは、喉の渇きを感じにくくなるという生理的変化に加え、トイレの回数を減らしたい、頻尿や失禁が心配、といった心理的な理由が関係しています。
また、「むせがあるから怖い」「お腹が張って気持ち悪くなる」といった体感的な不快感もあります。食欲がない、胸やけ、頭痛など別の不調がある時には、そもそも“飲もう”という気持ちになりません。さらに、認知症が進んでいる場合には、「飲む」という行動の手順がわからなくなっていることもあります。
このように、水分摂取の拒否は感覚・心理・行動の複合的な問題として起きています。だからこそ、「飲まない=わがまま」ととらえず、背景にある理由を想像しながら関わる視点が欠かせません。
2. 体調不良を見逃さないために。体調変化の小さなサイン
高齢者の熱中症は、軽い体調不良に見える“初期症状”から始まることが多く、本人が訴えにくい、周囲も気づきにくいという特徴があります。ここでは、初期〜中等度の段階で現れやすい変化や、見逃さないための観察ポイントについて整理します。
高齢者の“なんとなく元気がない”は、体内からのSOSかも
軽度の脱水や熱中症では、めまい・立ちくらみ・食欲不振・倦怠感などが見られます。「暑さのせいかな」「今日は眠れなかったのかも」と軽く考えられがちですが、本人がはっきり訴えられないことも多く、見逃しの原因になります。
例えば、「口数が少ない」「いつもより座っている時間が長い」「排尿回数が減った」「トイレに行っていない」といった行動の変化が、すでに体内で水分が不足しているサインになっている可能性があります。
介護士が感じる高齢者の変化、“いつもと違うかも?”に気づける視点を
観察すべきポイントは、「何か特別な異常があるか」どうかではなく、「いつもと比べてどうか」です。たとえば、口の中が乾いている、唇がカサカサしている、皮膚のハリがない、尿の量が少ないといった見た目の変化は、小さなようでいて重要な兆候です。
特に、皮膚の乾燥や尿の変化は見逃されやすいため、「今日は肌がカサついているな」「最近、排尿の記録が減っているな」と感じたら、軽視せず水分摂取のタイミングや環境を見直す必要があります。
意識があっても“油断せず”、早めの対応を
中等度の脱水になると、頭痛、ぼんやりする、ふらつく、吐き気といった症状が現れることもあります。「飲んでくれたから大丈夫」ではなく、その後の様子や再発の兆候にも注意が必要です。
重度の熱中症では、意識障害や痙攣、せん妄(混乱・幻覚など)といった症状が現れ、命に関わる事態になります。こうした状態になる前に、「これくらい大丈夫だろう」と自己判断せず、少しでも異変を感じたら報告・共有・受診につなげる姿勢が何より重要です。
特に高齢者は、軽い不調から重症化までのスピードが速いため、「ちょっと元気がないな」と思った段階で、周囲が一歩早く動けることが、命を守る行動になります。
3. 高齢者の体調の変化 “いつ・どこで”に注目:観察タイミングの工夫
高齢者の熱中症予防では、「どのくらい飲んだか」だけでなく「いつ・どんな場面で体調が崩れやすいか」に注目することも大切です。特に、時間帯や状況に応じた観察視点を持つことで、わずかな変化にも早く気づけるようになります。
体調変化が起きやすい時間と動作
起床後、入浴後、排泄後、食事の前後などは、体調が変化しやすいタイミングです。寝起き直後は水分が不足しており、ふらつきやだるさが出やすくなります。入浴後は、発汗によって水分が失われ、脱水が進みやすい時間帯です。また、お湯の温かさによって血管が拡張し、一時的に血圧が下がることで、めまいや立ちくらみが生じることもあります。こうした変化が重なると、体調を崩すリスクが高まります。
また、午後の活動後や外出後など、少し動いた後に疲れがたまりやすい時間帯にも注意が必要です。暑い日の屋内移動だけでも体力を消耗し、水分が足りなくなっていることがあります。こうした“動作を伴う時間”や“体力を使った後”は、いつもより丁寧な観察が求められます。
観察のリズムを日常に組み込む
日々のケアのタイミングに、観察のポイントをあらかじめセットしておくと、見逃しを防ぎやすくなります。たとえば、
- バイタルチェック時に顔色や唇の乾きも見る
- トイレ誘導時にふらつきを確認する
- 入浴後には「1杯の水+表情チェック」をルール化する
など、「何時に・どこで・何を見るか」を決めておくと、自然とケアの精度が高まります。
申し送りにも、「朝は飲み込みがゆっくりだったけど、昼は普段通りだった」「水分はとっていたが、トイレの回数が少なめだった」「今日は暑いと言っていたが、水分摂取は少なめ」などの変化を記録しておくことで、チーム全体の気づきにつながります。 「飲んだから大丈夫」ではなく、その後の様子まで目を向けることが大切です。
4. 介護施設の夜勤・早朝に潜むリスク
日中に比べて人員が少ない夜勤帯。特に熱中症の前兆は静かに進行することが多く、目立った症状が出ないまま脱水が進んでいることがあります。
夜勤時には気を付けて!気づきにくい夜の脱水
夜間は水分摂取の機会が少なく、寝汗や皮膚からの蒸発により、知らぬ間に水分が失われがちです。エアコンの使用などで室内が乾燥していると、さらに脱水が進みやすくなります。また、「夜中トイレに行きたくない」「眠れなくなるのが不安」といった理由から、水分を控える方もいます。
空調の効きにムラがある居室や、掛け布団の影響で大量に汗をかいているケースも見られます。こうした夜間の水分不足は、翌朝のふらつきや倦怠感につながることもあります。
もちろん、朝の不調の背景には睡眠不足や服薬の影響、感染症の初期症状などさまざまな要因も考えられますが、「脱水の可能性もある」という視点を持っておくことで、早期の対応がしやすくなります。
夜勤中の見守り時にこそ見えるサインを共有する
夜勤中の見回りでは、眠りの深さや寝汗の有無、布団の掛け方などを確認しておくと、脱水のサインに気づけることがあります。室温の偏りや冷房の効きすぎなど環境面のチェックも大切です。
朝のバイタル測定や離床時の様子を通して、夜間の体調変化を把握できる場合もあります。夜勤明けの申し送りで、「トイレに起きていない」「掛け布団をはねのけていた」など、小さな気づきを共有しておくと、日中スタッフがより的確に様子を見守ることができます。
5.転職活動とJobSoel(ジョブソエル)の活用
医療・介護分野での転職には、専門の求人情報プラットフォームであるJobSoel(ジョブソエル)の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
JobSoelでは、全国の医療福祉に関する職種の求人情報を検索できるほか、施設の雰囲気や具体的な取り組みを知ることができます。
新しい職場での働き方や成長のチャンスを具体的にイメージしながら転職活動を進められるので、安心して検討できますよ。
自分に合った職場を見つける一助として、ジョブソエルを活用してみてください。効率的に転職活動を進めるための心強いツールとなるでしょう。
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6.まとめ
高齢者の熱中症は、予防を意識していても起きてしまうことがあります。「暑くないと言っているから大丈夫」「飲んだから安心」と思っていても、体の中では少しずつ変化が進んでいるかもしれません。
そのため、日々のケアの中で「いつもと違うかもしれない」という感覚を大切にしながら、タイミングや動作に合わせた観察を続けていくことが大切です。
暑さを感じにくく、喉の渇きに気づきにくい方に対しては、言葉よりも表情や動き、過ごし方に目を向けてみることがひとつの手がかりになります。
体調の変化を一人で見抜くのは難しいこともあります。だからこそ、気づいたことを記録に残したり、周りと共有したりすることが、熱中症を未然に防ぐことに繋がります。
暑さが厳しくなるこれからの季節に向けて、少しずつ備えていきましょう。

 
                         
                         
                         
                         
                        