ことば・聞こえ・食べるを支える専門職「言語聴覚士」の仕事とは?

言語聴覚士の仕事
掲載日: 2025.07.28
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1. 言語聴覚士とは?  

私たちは日々、言葉を使って気持ちを伝え合い、考えを共有しながら生活しています。しかし、病気や事故、発達上の問題によって「話す」「聞く」「食べる」ことが難しくなることがあります。そのような困難を抱える方を支援するのが言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist, ST)です。

言語聴覚士は、ことばや聴こえ、食べる機能に関わる問題を持つ方の生活をサポートします。対象となるのは、失語症や構音障がい、高次脳機能障がい、聴覚障がい、ことばの発達の遅れ、声や発音の障がいなど多岐にわたります。また、摂食・嚥下(えんげ)の問題にも対応し、食事を安全にとれるよう訓練や指導を行います。

単に発音や言葉の訓練を行うだけでなく、患者さま一人ひとりの状態を評価し、リハビリ計画を立案し、訓練・指導・助言を行うことが求められます。そのため、医師や歯科医師、看護師、理学療法士、作業療法士、心理士、福祉関係者などと連携し、チームの一員として活動することが多いのも特徴です。

また、言語聴覚士は医療・介護・福祉・保健・教育などの分野で働いています。病院やリハビリ施設、介護施設、特別支援学校、児童発達支援センターなどでも活動し、ことばや聴こえに関する困りごとを抱える方とそのご家族さまを支援します。

2. 言語聴覚士の仕事内容  

言語聴覚士という名前から、「話すこと・聞くこと」に関する仕事というイメージを持たれることが多いかもしれません。しかし、実際には「食べること」の支援も重要な役割の一つです。ことばや聴こえ、飲み込みに関する困難を抱える方に対し、それぞれの状態に応じた評価を行い、適切な訓練を進めます。

言語聴覚士の業務に関する法令

言語聴覚士法第一章第二条

言語聴覚士は、音声機能、言語機能又は聴覚に障害のある者について、その機能の維持向上を図るため、言語訓練や検査、助言、指導、援助を行うことを業とする。

 

言語聴覚士法第四十二条

言語聴覚士は、医師や歯科医師の指示の下、嚥下訓練、人工内耳の調整などを行うことができる。

https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000132

このように、言語聴覚士はことばや聴こえだけでなく、食べる機能の維持や向上を目的としたリハビリも担当します。

具体的な仕事内容

① 言語・コミュニケーションの支援

言語障がいや発音の問題がある方に対し、適切な訓練を行います。失語症の方には、単語や文章を思い出す練習を、構音障がいの方には、口や舌の動きを調整しながら正しい発音を習得する訓練を行います。また、声が出しにくい、かすれるなどの音声障がいに対しては、発声をスムーズにするためのトレーニングを行います。

聴覚障がいがある方には、補聴器や人工内耳を活用しながら聞こえの訓練を行い、聞き取りに関する支援も行います。必要に応じて、ご家族さまや周囲の人々へ適切なコミュニケーション方法を伝えることも大切な役割の一つです。

② 摂食・嚥下の支援

食べ物を飲み込むことが難しくなった方に対して、嚥下機能の評価を行い、食事を安全に摂取できるよう支援します。脳の障がいや加齢の影響で嚥下反射が低下している場合、飲み込みを促進するためのトレーニングを実施します。また、食事の姿勢や食品の形状の工夫、食事中の注意点についての指導も行い、誤嚥を防ぐための環境づくりにも取り組みます。

③ 高次脳機能障がいのリハビリ

脳卒中や交通事故などで脳に損傷を受けた場合、言葉を思い出すことが難しくなったり、話の流れを理解しづらくなったりすることがあります。記憶力や注意力が低下することで、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。

言語聴覚士は、言葉を思い出す練習や、順番通りに作業を進めるトレーニングなどを行い、会話や生活の中で困る場面を減らせるよう支援します。

④ 小児のことばの発達支援

子どものことばの発達が遅れている場合、年齢や成長に応じた訓練を行います。絵本を見せながら言葉を引き出したり、発音の練習をしたりすることで、少しずつ表現の幅を広げていきます。ことばの理解が難しい場合には、簡単な言葉を繰り返しながら習得を促し、会話の流れをつかめるよう支援します。

また、発音が不明瞭な場合には、舌や唇の動きを調整するトレーニングを行い、正しい発音を習得できるようにサポートします。家庭や学校と連携し、子どもがことばを使いやすい環境を整えることも言語聴覚士の役割です。

⑤ チーム医療の一員としての活動

医師や看護師、理学療法士、作業療法士などそれぞれの専門職と連携し、病院、介護施設、学校などで支援を行います。

3. 言語聴覚士に必要な資格  

言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist:ST)は、1997年に国家資格として制定されました。理学療法士・作業療法士が1965年に法制化されたのに比べると、比較的新しい資格です。そのため、認知度はまだ高くありませんが、高齢化による失語症や嚥下障がいの増加、発達支援のニーズ拡大などを背景に、医療・福祉・教育の分野での必要性が高まっています。

言語聴覚士として働くには、国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を取得することが必須です。試験は毎年2月に実施されます。受験資格を得るには、法律で定められた教育課程を修了する必要があります。

4. 言語聴覚士の資格取得方法  

受験資格の取得方法

言語聴覚士国家試験の受験資格を得るためには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。

① 高校を卒業後、3~4年制の大学・短大・専門学校の言語聴覚士養成課程を修了する。
② 4年制大学を卒業後、2年間の専修学校または大学院の専攻科で学ぶ。
③ すでに関連科目を履修している場合、1年間の指定養成校で必要な課程を修了する。
④ 海外の大学で言語聴覚士に関する学業を修めた場合、厚生労働大臣の認定を受ける。

国家試験

言語聴覚士国家試験は毎年2月中旬に実施される筆記試験で、マークシート方式の200問(基礎科目100問・専門科目100問)が出題されます。

  • 試験科目:基礎医学、臨床医学、臨床歯科医学、音声・言語・聴覚医学、心理学、
    音声・言語学、社会福祉・教育、言語聴覚障害学総論、失語・高次脳機能障害学、
    言語発達障害学、発声発語・嚥下障害学、聴覚障害学
  • 合格基準:200点満点中120点以上

言語聴覚士国家試験の合格率は全体で65~75%ですが、新卒者の合格率は80%以上と比較的高めです。

5. 言語聴覚士の就職先  

言語聴覚士は、医療・介護・福祉・教育の分野で、ことばや聴こえ、食べることに問題をもつ方やそのご家族さまを支援します。また、行政機関や研究機関、企業などでも働いています。

日本言語聴覚士協会のデータ(有職者18,290人)によると、言語聴覚士の勤務先は医療機関が最も多く、全体の60.53%を占めています。次いで医療と介護の複合施設(17.43%)、介護施設(6.51%)、福祉施設(4.92%)の順に多くなっています。

https://www.japanslht.or.jp/what/

① 医療機関

言語聴覚士の就職先として最も多いのは、病院や診療所などの医療機関です。日本言語聴覚士協会のデータによると、有資格者の約6割が医療機関に勤務しています。

病院では主に、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、小児科、口腔外科などの診療科で、難聴や言語障がい、嚥下障がい、構音障がいのリハビリテーションを行います。

耳鼻咽喉科では補聴器適合や人工内耳の調整、難聴リハビリテーションを行い、リハビリテーション科では脳卒中後の失語症や高次脳機能障がい、嚥下障がいの訓練を担当します。小児科ではことばの発達遅れや構音障がい(発音の問題)に対する支援を行います。

主な就職先:
大学病院、総合病院、専門病院、リハビリテーションセンター、診療所、クリニック

② 介護・福祉施設

高齢化に伴い、介護や福祉の分野でも言語聴覚士の需要が高まっています。日本言語聴覚士協会のデータでは、有資格者の約24%が介護分野(医療との複合施設を含む)、約7.2%が福祉分野に従事しています。

介護施設では、高齢者の嚥下機能の維持・向上を目的としたリハビリが中心です。福祉施設では、障がいを持つ子どもや成人の言語・コミュニケーション支援が行われます。障がいの種類や発達段階に応じた訓練を行い、必要に応じてご家族さまや支援者への指導も担当します。

主な就職先:
介護老人保健施設(老健)、デイケア、訪問看護・訪問リハビリ事業所、障がい者福祉施設、児童発達支援センター、重症心身障がい児施設、放課後等デイサービス

③ 教育機関

言語聴覚士は、ことばの発達支援を目的として教育機関でも働いています。学校教育機関で働く言語聴覚士の割合は0.57%と比較的少ないですが、特別支援学級や聴覚障がい・知的障がいを持つ児童・生徒の通う特別支援学校では、言語習得や教育支援、集団生活への適応訓練を行います。また、教員や保護者と連携し、児童の発達に適した環境作りを支援することも役割の一つです。幼児期のことばの発達に関する巡回相談支援を行うこともあります。

主な就職先:
小学校・中学校(特別支援学級)、特別支援学校(聴覚障がい・知的障がい)

④ 研究・教育機関・その他

言語聴覚士は、行政機関や研究施設、企業などでも活躍しています。行政機関では、障がい福祉や医療相談業務、特別支援教育の支援などを担当します。研究機関では、言語発達や聴覚リハビリテーションに関する研究を行い、大学などの養成校では次世代の言語聴覚士を育成する役割を担います。

また、補聴器メーカーや教材開発会社などの企業では、専門知識を活かした製品開発や技術指導を行うこともあります。

主な就職先:
研究施設、言語聴覚士養成校(大学・専門学校)、補聴器メーカー、ST教材販売、行政機関、一般企業

6.言語聴覚士の給与について  

言語聴覚士(ST)の平均年収は約420万~430万円、月給は約30万円、賞与は60万~80万円です。このデータは理学療法士・作業療法士・視能訓練士を含む合算データである点に注意が必要です。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/

初任給は約23万円で、20代の平均年収は約350万円。全体として経験を積むことで年収は上昇しますが、単に年齢が高いだけで給与が増えるわけではなく、経験年数が重要な要素となります。過去数年間のデータでは、給与は緩やかに上昇傾向にあります。

7. 言語聴覚士のキャリアアップ  

言語聴覚士がキャリアアップを目指すには、経験を積む、専門資格を取得する、転職や独立を考えるなどの方法があります。

① 臨床経験を積む

医療機関や福祉施設では、年功序列の給与体系が一般的であり、長く勤めることで昇給が期待できます。また、役職に就くことで基本給や役職手当の増額も見込めます。勤続年数を重ねながら管理職を目指すことで、収入の向上が期待できます。

② 資格を取得してスキルアップする

資格を取得することでスキルアップやキャリアアップにつながります。

  • 認定言語聴覚士(日本言語聴覚士協会)
    言語障がいや摂食嚥下障がいなどの専門分野ごとに、より高いスキルを持つことを証明する資格です。取得には、5年以上の臨床経験、生涯学習プログラムの修了、認定言語聴覚士講習会の受講が必要です。
    https://www.japanslht.or.jp/about/members-list.html
  • 栄養サポートチーム(NST)専門療法士(日本臨床栄養代謝学会)
    栄養管理に関する専門知識を証明する資格で、患者さまの栄養状態を考慮した食事の提供や、嚥下機能の評価・リハビリに関与できます。NST(栄養サポートチーム)の一員として、医師・看護師・管理栄養士らと連携しながら栄養管理を行うことが可能になります。
    https://www.jspen.or.jp/certification/nst

  • プロフェッショナル心理カウンセラー(全国心理業連合会)
    心理学・心理療法の専門知識を身につけることで、リハビリの際の患者さまとのコミュニケーションを円滑にし、信頼関係を築きやすくする資格です。言語聴覚士は患者さまとの距離が近く、時にはカウンセラー的な役割を求められるため、心理学の知識が役立ちます。
    https://www.mhea.or.jp/certificate/certificate_09.html

  • 手話通訳士
    聴覚障がいのある患者さまやそのご家族さまと円滑にコミュニケーションをとるために役立つ資格です。特に、小児領域や聴覚リハビリに関わる言語聴覚士にとって有益です。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30553.html

③ 転職する

同じ資格を持っていても、勤務先によって給与や待遇は大きく異なります。 例えば、訪問リハビリ施設や介護老人福祉施設では、処遇改善加算によって給与が上がるケースもあります。

また、給与アップや働きやすい職場を見つけるためには、転職支援サービスを活用するのも有効です。ジョブソエルでは、言語聴覚士向けの求人情報を提供しており、希望条件に合った職場探しをサポートしています。給与アップを目指して転職を検討している方は、ぜひ活用してみてください。

④ 開業して独立する

言語聴覚士は、吃音や言語リハビリなどの分野で自費診療を行い、独立開業することが可能です。特定のニーズに特化したサービスを提供することで、安定した収益を確保できます。ただし、開業には初期費用がかかるほか、集客や経営スキルも必要になるため、事前の準備が重要です。

8. 言語聴覚士の将来性  

言語聴覚士(ST)は1997年に国家資格として制定された比較的新しい職業です。現在の登録者数は約34,000人で、理学療法士や作業療法士と比べるとまだ少なく、全国的に不足しています。

特に高齢化の進行により、言語聴覚士の役割は拡大しています。 高齢者の嚥下障がいや認知症によるコミュニケーション障がいへの対応が必要となり、在宅医療や介護施設での支援が増えています。また、地域包括ケアシステムの推進により、病院だけでなく地域でのリハビリの機会も広がっています。

さらに、発達障がいへの理解が進み、特別支援学校や幼児教育の現場で言語発達を支援する役割も増加しています。言語聴覚士は専門性を深めながら、変化する社会のニーズに対応し続けることが求められています。

9.転職活動とJobSoel(ジョブソエル)の活用  

医療・介護分野での転職には、専門の求人情報プラットフォームであるJobSoel(ジョブソエル)の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

JobSoelでは、全国の医療福祉に関する職種の求人情報を検索できるほか、施設の雰囲気や具体的な取り組みを知ることができます。
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10.まとめ  

言語聴覚士(ST)は、ことばや聴こえ、食べることに困難を抱える方を支える専門職です。
病院や介護・福祉、教育現場など幅広いフィールドで活躍し、チーム医療の一員として大切な役割を担います。
国家資格取得後も専門性を高めながら、多様なニーズに応えることが求められています。
高齢化や発達支援の重要性が増す中、言語聴覚士の存在は今後さらに必要とされるでしょう。
このコラムが少しでも参考になり、キャリアアップや職場選びのお手伝いになれば幸いです。

 

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