介護職の次のステップを考える:実務者研修のタイミングと判断のポイント
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はじめに:
初任者研修を終えて次の一歩を考えると、こんな不安が自然と出てきます。実務者研修は、介護の“基礎の次”に位置づけられる学びで、介護福祉士国家試験の受験資格にもつながります。ただ、良い話だけではありません。学習時間やスクーリングの確保、費用負担など、考慮する点がいくつもあります。
このコラムでは、制度の内容を整理しながら、「自分はいつ・どの順番で進むのが良いか」を考えるためのヒントを紹介します。
目次
1. 介護福祉士実務者研修とは?
実務者研修は、介護職として必要な知識と技能をより深めるための研修で、介護福祉士国家試験の受験資格と直結しています。
入学条件はなく、無資格でも受講できますが、教育期間は6か月・総学習時間450時間以上が目安とされており、在宅の通信学習とスクーリングを組み合わせて学びます。研修は「人間と社会」「介護」「こころとからだのしくみ」「医療的ケア」など複数の科目で構成され、特に医療的ケアについては講義50時間以上+実習が必須です。より幅広い支援に対応できる視点を身につけることを目的とした内容です。
研修期間や受講費用は実施機関によって異なるため、受講を検討する際は案内資料で確認してください。
2. 初任者研修とのちがい
初任者研修は、介護の仕事を始めるときに基礎を身につける入口として位置づけられています。学習時間はおおよそ130時間で、介護の考え方や基本となる技術を学ぶ内容です。現場でのコミュニケーションや、生活支援の基本的な流れを理解する段階といえます。
一方、実務者研修は、初任者研修で身につけた基礎の上に応用的な視点や知識を積み重ねる内容になっています。学習時間は450時間以上と大きく広がり、より専門的な内容に触れます。介護福祉士国家試験(実務経験ルート)の受験に必要な研修でもあり、次のステージを見据えた学びが含まれています。
初任者研修を修了している場合、実務者研修で学ぶ内容のうち約130時間分が免除されます。基礎を終えている分、応用の内容から取り組めるイメージになります。
無資格のまま直接実務者研修を受けることもできます。ですが、内容の幅が広いため、学習量や専門用語に戸惑う場面があるという声もあります。段階を踏んで学びたい場合は、初任者研修→実務者研修という流れが進めやすいと感じる方が多いようです。
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3. 実務者研修を受けるメリットと気を付けたい点
実務者研修は、次のステップを考え始めたときに選択肢を広げてくれる研修です。その一方で、受講にあたって負担を感じる場面もあります。
① 実務者研修を受けるメリット
- 役割の選択肢が広がる
実務者研修を修了すると、訪問介護事業所で「サービス提供責任者(サ責)」として働く際の要件を満たせるようになります。役割の幅が広がることで、働き方の選択肢が増えます。 - 医療的ケアの基礎を学べる
研修には、喀痰吸引や経管栄養といった医療的ケアに関する講義や演習が含まれています。実際に業務として行うには事業所での追加研修が必要ですが、基礎を知っているだけでも、看護職との連携や利用者の体調変化への理解が深まります。 - 介護福祉士を目指す道が開ける
実務者研修の修了は、介護福祉士国家試験(実務経験ルート)の受験に必要な条件です。
② 受講前に知っておきたいこと
- 学習時間と体力(気力)の負担がある
通信学習が中心とはいえ、一定期間の学習が必要になります。働きながら受講する場合は、学習ペースの確保に悩む声がよく聞かれます。 - 費用負担が発生する
受講費用は数万円〜十数万円程度と幅があり、決して小さな金額ではありません。自治体や事業所で補助制度を設けている場合もあるため、活用できるか検討してみるのも良いでしょう。 - スクーリングの日程調整が必要
通信中心とはいえ、通学日(スクーリング)もあります。勤務シフトや自身の予定との調整が必要になります。
4. 給与・待遇はどう変わる?
① 給与
厚生労働省「令和6年度 介護従事者処遇状況等調査」によると、常勤介護職員の平均月給には次のような差があります。

実務者研修を修了すると、無資格と比べ月約1.5万円、初任者研修と比べても月約6,000円ほど高い傾向が見られます。年換算では約7万円前後の差となり、資格取得のためにかかる費用を考える際の判断材料になります。
ただし、この差は「平均値」であり、必ず同じだけ上がるという意味ではありません。職務内容の変化に伴う手当が反映されている場合もあります。
② 待遇
給与以外の面では、実務者研修の修了によって以下のような変化が見られることがあります。
- 訪問介護で「サービス提供責任者(サ責)」として配置される要件を満たせる
- 資格手当や役職手当の対象になることがある
- 研修参加やスキルアップ支援が受けやすくなる場合がある
介護現場では「処遇改善加算」によって賃金アップの仕組みが設けられています。ただし、実際の配分や評価のされ方は事業所ごとに違うため、「研修を受けたのにあまり変わらなかった」という声もあります。とはいえ、スキルアップや資格取得を評価する職場も増えており、長く働くうえでは大きな強みになるでしょう。
5. いつ受けるのがいい?目的や状況から考えてみる
実務者研修を受講する時期に明確な決まりはありません。目的や働き方、今後のキャリアプランによって最適なタイミングは人それぞれです。
業務に慣れてきた頃に受講する
現場の流れや介助の基本に慣れ、「もっと知識を整理したい」「利用者理解を深めたい」と感じ始めた時期に受講する人が多いです。日々の経験と学習内容を結びつけやすく、学びが定着しやすい時期といえます。
任される業務が増えてきた頃に受講する
利用者対応やチーム内での役割が広がってくると、判断力や連携力を求められる場面が増えます。そうしたタイミングで受講することで、業務に必要な知識を体系的に学べます。将来的にサービス提供責任者(サ責)を目指す場合にも、受講が検討されやすい時期です。
働き方や今後の動きに合わせる
転職を予定している場合、実務者研修を修了していることで応募できる求人の幅が広がります。資格手当の対象となる求人もあります。
一方、職場内で業務内容が変わる予定がある場合や異動がある場合は、新しい業務習得と受講期間が重なると負担が大きくなります。スケジュールにゆとりをもたせて受講時期を検討すると、より円滑に進められます。
国家試験を視野に入れる
介護福祉士国家試験(実務経験ルート)では、「実務経験3年以上」と「実務者研修修了」が受験要件の一つです。
無資格の方は修了までおおよそ6か月、初任者研修修了者は一部科目免除により約4か月が目安とされています(受講先によって多少異なります)。
毎年1月の試験に合わせる場合、次のようなスケジュールが一般的です。
- 無資格の方:5〜6月頃までに受講を開始
- 初任者研修修了の方:7〜9月頃までに受講を開始
試験申込時点で修了見込みであれば「修了見込み証明書」で申請が可能です。ただし、夏から秋にかけては受講希望者が増え、スクーリング枠が埋まりやすくなります。国家試験を視野に入れている場合は、学習期間に余裕をもって早めに準備を始めるほうが安心です。
6. 働きながら受講する際に押さえておきたいポイント
■ 費用の目安と活用できる制度
受講費用は実施機関により幅がありますが、無資格の方で約12万〜18万円前後、初任者研修修了者は約8万〜15万円程度です。
費用負担を抑える制度として、以下のような仕組みもあります。
- 教育訓練給付金(一般教育訓練):受講費の20%を支給(要件あり)
- 離職者訓練・求職者支援訓練:離職中に受講できる制度
- 都道府県・市区町村の研修受講補助制度(例:東京都「介護職員研修受講支援事業」など。上限額や申請条件は自治体ごとに異なる。)
- 事業所による研修費補助制度:全額または一部負担制度を設けている事業所がある
■ スクール選び
受講スタイルは事業者によって異なるため、自分に合うかどうかを判断するための確認項目として、次のような点が挙げられます。
- 課題提出形式(紙/WEB)や教材形式(冊子/オンライン)
- 通信とスクーリングの割合、通学日数、日程調整のしやすさ
- 会場の立地・アクセス・通学頻度
- 受講期間(短期集中型:2〜3か月、標準型:4〜6か月など)
- サポート体制(質問対応、課題のフィードバック方法)
- 支払い方法(分割・カード払い対応など)
どれが良い・悪いではなく、働き方や生活リズムによって選ぶポイントが変わります。
■ 受講中につまずきやすいポイント
学習を進めるうえで次のような場面が大変だと感じる声が多く見られます。
- 学習期間が長いため、ペース配分が難しい
- 通信課題は提出数が多く、後半に残すと提出期限直前に負担が集中する
- 勤務シフトとスクーリング日程の調整が難しい。欠席時の振替枠が少ない場合や追加費用が発生するケースもある。
- 実技演習は対面形式で行われ、緊張しやすい
- 医療的ケアの科目は専門用語が多く、理解に時間がかかる
7. 転職活動とJobSoel(ジョブソエル)の活用
医療・介護分野での転職には、専門の求人情報プラットフォームであるJobSoel(ジョブソエル)の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
JobSoelでは、全国の医療福祉に関する職種の求人情報を検索できるほか、施設の雰囲気や具体的な取り組みを知ることができます。
新しい職場での働き方や成長のチャンスを具体的にイメージしながら転職活動を進められるので、安心して検討できますよ。
自分に合った職場を見つける一助として、ジョブソエルを活用してみてください。効率的に転職活動を進めるための心強いツールとなるでしょう。
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8. まとめ
介護福祉士実務者研修について、制度の概要や学ぶ内容、受講のタイミングなどを整理してきました。
働き方や生活状況によって、受講を検討する時期や目的は人それぞれです。
この記事が、今後のキャリアを考えるうえでの一つの判断材料になれば幸いです。
参考:
厚生労働省:実務者研修の指定基準について
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/care/dl/care_16.pdf
労働基準監督署:介護に関する資格等について
https://jsite.mhlw.go.jp/ishikawa-roudoukyoku/content/contents/001790771.pdf
厚生労働省:令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/24/dl/r06kekka.pdf
