転職前に知っておきたい有給休暇の基礎知識

労務・給与 お悩み
掲載日: 2026.03.25
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はじめに:

転職を決めたとき、ぜんぜん使えなかった有給休暇がどうなるか、疑問に感じたことはありませんか?

本記事では、法律で定められた労働者の権利でである年次有給休暇取得について、

「退職するとき、有給休暇は全部使える?」「会社から「忙しいから有給休暇利用は無理」と言われたら従うしかない?」「有給休暇の買い取りってなに?」などの疑問と、転職前に知っておくべきポイントを整理します。

 

1. 退職するとき、有休は全部使える?

退職日までの在籍中なら有休取得は可能

退職日までの在籍期間中であれば、有休は取得できるのが原則です。

退職が決まったからといって、年次有給休暇(以下、有休)の権利が失われるわけではありません。労働者は、退職日を迎えるまでの間、残っている有休を取得することができます。

たとえば、

  • 「最終出勤日以降はすべて有休消化にしたい」
  • 「退職日までの間に、残日数をまとめて取得したい」

といった希望を出すこと自体は、法律上認められています。
しかし、医療・介護・福祉の現場では、

「人手が足りないから難しいのではないか」
「最後まで出勤するのが当然ではないか」

といった空気がある職場も少なくありません。それでも、法律上は退職予定者であっても在籍中であれば有休を取得できます。

ただし、ここで重要なのは「法律上の原則」と「実務上の調整」は別であるという点です。この点については後述します。

なぜ使える?労基法39条と時季指定権の考え方

有休の根拠は、労働基準法第39条にあります。

同条は、一定の要件(6か月継続勤務・8割以上出勤)を満たした労働者に対し、有給休暇を付与することを使用者に義務付けています。
さらに、有休は「労働者が請求する時季に与えなければならない」と定められています。

これを一般に「時季指定権」といいます。つまり、有休をいつ取得するかは、原則として労働者が決めることができるという考え方です。

2. 会社は有休取得を拒否できる?時季変更権の扱い

第1章で整理したとおり、退職予定者であっても、在籍中は有休を取得できるのが原則です。
では実務上よく出てくる「人手が足りないから無理」「その日は休めない」といった話は、法律上どこまで認められるのでしょうか。

ここで重要になるのが、会社側に認められている「時季変更権」です。

時季変更権とは?

年次有給休暇は、労働者が希望する時季に取得できるのが原則です。
その一方で、使用者(会社)には例外として、労働者が指定した日に休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、休暇日を別の日に変更できる権限があります。
これが時季変更権です。

ポイントは次のとおりです。

  • 会社が自由に拒否できる権利ではない
  • 行使できるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られる
  • 休ませないのではなく、別の日に「変更」する制度である

つまり、時季変更権は「有休を認めない」ための制度ではなく、あくまで業務への重大な支障を避けるために、取得日を調整する仕組みです。

単に「繁忙期だから」「人手不足だから」という理由だけで有給の取得を拒否できるというものでもありません。

退職予定者に時季変更権は使える?

退職日を過ぎると雇用契約は終了し、その後に振り替えるべき「別の日(労働日)」は存在しません。行政通達(昭和49年1月11日 基収5554号)や裁判例でも、退職日を超えて時季変更権を行使することはできないと解されています。

そのため、退職日までに取得すると請求された有休を、退職日以降へ変更することはできません。結果として、退職予定者に対する時季変更権の行使余地は、法律上きわめて限られることになります。

3. 会社に有給消化を拒否されたら?

実際の現場では、「それは認められない」「出勤が前提だ」「消化させない方針だ」次のように“事実上の拒否”が行われることがあります。この場合、どう対応すべきでしょうか。

まず確認すべきこと

会社が本当に「時季変更権」を行使しているのか確認します。

確認すべき点は、具体的にどの業務が止まるのか?代替要員の調整は不可能なのか?
別日への変更提案はあるのか?がポイントです。

単なる感情論や慣行では、時季変更権の正当行使とはいえません。

書面で申請する

口頭で拒否されている場合は、自身の有休残日数、取得希望日、最終出勤日を明記した申請を行いましょう。
有休は「請求」により成立しますので、必ず書面等で記録を残すことが重要です。

それでも拒否された場合

就業規則に有給取得や申請に関する項目があるかどうかの確認をしてください。また、就業規則に明確な法違反が疑われる場合は、労働基準監督署への相談は現実的な選択肢です。

ただし医療・介護・福祉業界は横のつながりが強いため、実務的には「退職日の再調整」など、折衷案で合意するケースも多く見られます。最終的な目標は「勝つこと」ではなく、双方が納得できる形で退職を完了させることです。

法的知識を持ったうえで冷静に交渉し、可能であれば合意形成による解決を目指すことが、次のキャリアにも悪影響を残さない最善策といえます。

4. 会社が勝手に有休扱いにするのはOK?

また、退職を理由に会社が一方的に休暇取得日を指定することもできません。有休の取得は労働者の時季指定権に基づくものであり、労働者の申請や合意がないのに、欠勤日を勝手に有休扱いにする、あるいは退職までの期間を一方的に有休消化に充てることは認められないとされています。

なお、2019年の法改正により、会社は、年10日以上の有休が付与される労働者について、毎年5日は必ず有休を取得させることが義務づけられました。これを「年5日の年次有給休暇の確実な取得」といいます。

労働者が自ら5日以上の有休を取得していない場合には、会社は不足分について取得時季を指定し、取得させなければなりません。

ただし、この制度は、あくまで有休の取得を確保するための仕組みです。会社が労働者の意思とは無関係に欠勤日を一方的に有休扱いにしたり、退職時に残っている有休を自由に消化日として指定したりできる制度ではありません。

5. 退職前に確認|あなたの有休は何日残っている?

退職前に有休をどう使うか考えるうえで、まず押さえたいのが「自分に何日残っているか」です。「思っていたより少なかった」「実はかなり残っていた」というケースもあります。
ここでは、年次有給休暇の発生要件と付与日数の仕組みを確認します。

有休が発生する要件(6か月継続勤務・8割以上出勤)

年次有給休暇(有休)は、労働基準法第39条に基づき、一定の条件を満たした労働者に付与される制度です。有休が発生するためには、次の2つの要件をどちらも満たす必要があります。

  • 継続勤務要件:雇入れの日から6か月間継続して勤務していること
  • 出勤率要件:その期間の全労働日の8割以上出勤していること

「継続勤務」とは、労働契約が存続している在籍期間を指します。形式的に契約が更新される場合でも、実質的に雇用関係が継続していれば通算して計算されます。(一段階小さく)

この要件を満たすと、6か月経過時点で有休が付与されます。その後は、原則として1年ごとに新たに付与されます。

勤続年数別の付与日数

週所定労働時間が30時間以上、または週所定労働日数が5日以上の労働者には、勤続年数に応じて付与日数が増えていきます。

有休は勤続年数が長くなるほど逓増し、最大で年間20日まで付与されます。

パート・短時間労働者の比例付与

医療・介護・福祉の分野では、パートや短時間勤務の方も多くいます。有休は雇用形態ではなく、要件を満たした労働者に付与される制度です。

週の所定労働日数が少ない労働者については、勤務日数等に応じて有休が比例付与されます。比例付与の対象となるのは、次の条件をいずれも満たす労働者です。

  • 週所定労働時間が30時間未満
  • 週所定労働日数が4日以下、または年間の所定労働日数が216日以下

比例付与の日数は次のとおりです。

比例付与の対象者であっても、勤続年数によって付与日数が10日以上に達した場合には、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の対象となります。

繰越と時効

有休は、付与された年度内にすべて使い切れない場合、翌年度に限り繰り越すことができます。
また、有休の請求権には2年の時効があります。付与から2年が経過した分は消滅する可能性があります。

この仕組みを踏まえると、法定基準の場合、理論上の最大保有日数は40日(前年分の繰越+当年分)となります。

6. 使い切れない場合は?有休の買取はできる?

退職時の有休消化を検討する際、「どうしても日程上すべて消化できない場合は買い取ってもらえるのか」という疑問を持つ方も少なくありません。
ここでは、有休の買取に関する法的な整理を行います。

原則:年次有給休暇の買取は認められない

年次有給休暇の買取は、原則として認められていません。

その理由は、有休制度の本来の趣旨にあります。有休は「労働を免除しつつ賃金を保障することで、心身の疲労を回復させるための制度」です。金銭を支払う代わりに休暇を与えないという運用は、この趣旨に反します。

法定の日数を取得させずに買い取ることは労働基準法第39条違反となります。

たとえば、

  • 「忙しいから休まずに働いて、その分を最後にまとめて現金で支払う」
  • 「退職まで出勤してほしいので、有休はすべて買取にする」

といったように、在職中に有休を取得させず金銭で代替する運用は、原則として認められません。前提として、「有休は取得させるもの」であり、「お金に換えるものではない」という位置づけです。

例外:買取が違法にならないケース

もっとも、一定の場合には、買取を行っても労働基準法違反とはならないと解されています。
主なケースは次のとおりです。

① 退職時に未消化で残っている有休

退職により雇用契約が終了すると、その後は有休を取得する機会自体が消滅します。このように権利行使の機会が完全に失われる場合には、未消化分を金銭で精算することは差し支えないとされています。

② 時効により消滅した有休

有休の請求権は2年で時効により消滅します。すでに時効で消滅した分について、会社が後日金銭で精算することは違法ではありません。

③ 法定日数を超える会社独自の休暇

会社が法定基準(最大年20日)を上回って独自に付与している特別休暇などについては、その超過部分の買取は可能とされています。

誤解注意:会社に買取義務はある?

ここで重要なのは、例外的に認められる=会社に買取義務がある、という意味ではないという点です。

退職時に未消化分があったとしても、会社側が必ず買い取らなければならないという法的義務はありません。買取の可否や算定方法は、就業規則の定めや労使間の合意によって決まります。

そのため、

  • 「消化できなかった分は必ず現金でもらえる」
  • 「退職時は必ず買取対応になる」

といった理解は正確ではありません。

退職時トラブルを避けるための考え方

退職時の有休は、まず退職日までに取得することを前提に考えるのが基本です。退職によって雇用契約が終了すると、その後は有休を取得することができなくなるため、残日数を確認し、早めにスケジュールを組み立てておくことが重要です。

もっとも、引継ぎや人員配置の都合などから、すべてを取得できない場合もあります。その場合に初めて、会社と精算について話し合うことになります。

有休の買取は当然の権利ではなく、あくまで例外的な調整手段です。まずは取得を前提に進めることが、退職時のトラブルを防ぐポイントになります。

7. 有休消化中の実務ポイント|給与・手当・保険はどうなる?

退職前に有休を消化する場合、「休み」という感覚だけで進めてしまうと、給与や社会保険の扱いで思わぬ誤解が生じることがあります。ここでは、実務上とくに確認しておきたいポイントを整理します。

有休と欠勤の違い

有休と欠勤は、法的な扱いがまったく異なります。

有休は、労働義務が免除されつつ賃金が支払われる休暇です。取得した日は出勤したものとして扱われるため、基本給が減額されることはありません。

一方、欠勤は本来働くべき日に就労しない状態を指します。欠勤の場合、いわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」により、会社はその日の賃金を支払う義務を負いません。

この違いは、次の点に影響します。

  • 基本給の減額の有無
  • 精皆勤手当の扱い
  • 賞与算定への影響

有休を取得した日について、不利益な扱いをすることは原則として認められていません。退職前の有休消化期間も、法的には通常の在籍期間と同様に扱われます。

傷病手当金との関係

退職前に体調を崩している場合、
「有休を使うのか」「傷病手当金を申請するのか」で迷うことがあります。

ポイントは次のとおりです。

  • 有休を取得している間は、通常どおり給与が支払われます
  • 給与が支払われている期間は、原則として傷病手当金は支給されません

傷病手当金は、「働けず、給与が支払われない場合」の生活保障制度だからです。
それぞれ役割が異なるため、同時に受け取ることはできません。

退職直前に体調不良がある場合は、どちらの制度を使うかで、最終的な受取額や手続きの流れが変わる可能性があります。

どちらが有利かは一概には言えません。退職後の療養期間の見込みや、退職後の体調や生活設計も含めて、判断することが重要です。

社会保険との関係

有休消化中であっても、退職日までは在籍しています。
そのため、健康保険・厚生年金の資格は退職日まで継続します。

有休中だからといって、社会保険料の控除が止まるわけではありません。
特に注意したいのは、「月末に在籍しているかどうか」です。

健康保険・厚生年金は、月末時点で在籍している場合、その月分の保険料が発生します。
具体例で確認してみましょう。

  • 3月31日退職
    3/27まで出勤、3/28~3/31を有休
    → 3月31日に在籍しているため、3月分の保険料が発生します。

  • 4月3日退職
    3/31まで出勤、4/1~4/3を有休
    → 3月31日時点では在籍しているため3月分は発生
    → 4月末には在籍していないため、4月分の健康保険・厚生年金は会社では発生しません
    (退職後は国民健康保険や任意継続などへの切替が必要になります)

一方、雇用保険は退職日で資格喪失となるため、月末ルールは関係ありません。

退職日を「月末にするか」「月末より前にするか」によって、健康保険・厚生年金の負担が変わる場合があります。
有休の残日数とのバランスも含めて、退職日は計画的に設定することが大切です。

8. 退職時の調整で押さえたいポイント

退職時の有休消化は、法律上は労働者の権利として認められています。
ただ、医療・介護・福祉の現場では、それだけでは片付かない事情もあります。

ここでは、業界特有の現実を踏まえて考えてみます。

シフト制と引継ぎ

医療・介護・福祉分野の多くは、シフト制で運営されています。
夜勤、早番・遅番、オンコール対応など、個々の勤務がチーム全体の配置に直結しています。

そのため、

  • 急な有休取得により配置基準を満たせなくなる
  • 夜勤担当者の再調整が必要になる
  • 利用者・患者への継続支援に影響が出る

といった事態が起こりやすい構造があります。

退職時に有休をまとめて取得する場合も、

  • 自分の担当業務の引継ぎが完了しているか
  • 記録や申し送りが整理されているか
  • 利用者対応に抜けがないか

といった点を確認しておくと、余計な摩擦を避けやすくなります。
特に対人支援職では、“利用者に迷惑をかけない”という視点も大切になります。

人員不足下での調整

医療・介護・福祉分野は慢性的な人手不足が続いています。そのため、退職時に有休をまとめて取得すると、現場の負担増につながるケースもあります。

一方で、有休は法律に基づく権利です。

退職予定者が退職日までの取得を申し出た場合、会社が時季変更権を行使(有給休暇の日程を変更する権利)できる場合はごく限られています。単に「忙しい」という理由だけで拒否することはできません。

実際の現場では、退職日や最終出勤日の再調整を提案されることがありますが、その場合は、残っている有休日数と退職日を前提に、具体的な日程をすり合わせていくことになります。

トラブルを避けるための基本姿勢

退職時の有休消化は「権利の行使」であると同時に、長年働いた職場との最終調整でもあります。

トラブルを避けるために意識したいのは、次の三点です。

① 早めに伝える

退職意思とあわせて、有休の取得予定も早期に共有する。
直前申請は対立の原因になりやすい。

② 数字で示す

「有休を全部使いたい」ではなく、
「残り12日あるため、最終出勤日は○日になります」と具体的に伝える。

③ 感情で主張しない

「権利だから当然」ではなく、「この日程で進めたい」と冷静に説明する。

医療・介護・福祉の業界は横のつながりが強く、どこかで再び関わる可能性もあります。
法律を理解したうえで、現場への配慮も忘れずに進めることが、次のキャリアにもつながります。

9. 転職活動とJobSoel(ジョブソエル)の活用

退職は、働き方を見直すきっかけにもなります。

すぐに転職を決めなくても、まずは他の職場の条件を知ることから始めるのも一つの方法です。医療・介護分野の求人を探す際は、JobSoel(ジョブソエル)で情報を確認できます。

選択肢を広げるための情報収集として、活用を検討してみてください。

▼求職者様 会員登録ページ
https://jobsoel.com/sign-up
▼企業・法人様 会員登録ページ
https://jobsoel.com/company-sign-up

まとめ

残日数を確認し、退職日を計画的に設定することが、トラブルを避けるポイントです。制度を理解したうえで、納得できる形で次の一歩へ進みましょう。

 

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